病院でNT(nuchal translucency)が厚いと言われた方へ。
・産婦人科でNTが厚いと言われたけどNTって何?
・NTが厚いときはダウン症?
・NTが厚いことでダウン症以外で病気がある可能性は?
突然NTが厚いと言われてもよくわからないし、色々と不安ですよね。
今回の記事ではNTについて解説し、NTが厚いとどんな病気の可能性があるのか、正常な赤ちゃんのこともあるのか、について説明します。
その後、NT計測で異常があった場合に追加する検査はどんな種類があるかを解説していきます。
1. NTとは?
1. NTとは?
ここではNTに関しての基本的な事項を解説します。
1-1. そもそもNTって何?
NTとは、妊娠10-14週に赤ちゃんの首の後ろに見られる浮腫のことです。
超音波検査で測定します。
左図が実際のエコー写真、右図はそれをわかりやすいようにデフォルメした絵です。
絵では、赤ちゃんは下を向いており、背中に空洞が見えます。
この空洞にある矢印部分がNTで、この長さを計測します。
この週数のときの赤ちゃんはとても小さく(45-84mm程度)、NTも3-4mmと小さな部位を測定しなければならないので、ほんの少しの傾きや誤差が計測値に影響します。
NTを正確に測定するために以下の3つのルールがあります。
①妊娠11週0日-13週6日で測定
②画像に赤ちゃんの上半身が大きく写っていること
③しっかりと横向きの断面で計測されていること
これらをしっかりと測定してもらいましょう。
1-2. NTの長さと染色体異常の発生率の関係
NTの長さが長いほど、赤ちゃんが染色体異常やその他の先天性異常を持って産まれてくる可能性が高くなります1)。
NTの長さが3.4mm以内であれば染色体異常率は0.33%ですが、NTが6.5mmの場合は染色体異常率は64.5%に上昇します。
また、女性の年齢と染色体異常率も密接に関係しています。
当然ながら女性の年齢が上がれば上がるほど、お腹の中の赤ちゃんが染色体異常を持って生まれてくる可能性が高まります。
1-3. NTが長かったら健康な赤ちゃんは望めない??
NTが長いほど、染色体異常の赤ちゃんが生まれてくる可能性が上がりますが、中には染色体正常な場合もあります。
例えば、先述のNTの長さと染色体異常率のグラフで言えば、NTが6.5mmの場合は染色体異常率は64.5%ですが、35.5%の赤ちゃんで染色体異常がないということになります。
NTが長く、かつ染色体異常ではない赤ちゃんのうち、約77%は何も他に異常がない健康な赤ちゃんだったという報告があります。
NTが3.5mm以上かつ染色体正常だった赤ちゃん1320例について調査した研究です2)。
この研究では1320例中1020例が無病生存しています。
300例はその他に先天異常が見つかったり、途中で流産になってしまったり、人口妊娠中絶により妊娠が終了してしまいました。
しかし、これらのデータを見ても、NTが長いからといって赤ちゃんに異常があると決めつけてはならないことがわかります。
NTが長い場合には追加の検査を受けることで、赤ちゃんに染色体異常やその他の先天性疾患があるかどうかわかる場合があるので、しっかりと医療機関に確認して検査をしましょう。
2. NTが長いときはどんな検査を追加する?
NTが長いと言われた場合、どんな検査をしていくことになるのでしょうか?
2-1. 採血の検査
①母体血清マーカー
母体血清マーカー検査は妊娠15-20週に、妊婦さんの採血で検査できます。
妊婦の血液に含まれる赤ちゃんや胎盤由来のタンパク質やホルモンに関する血清マーカーの解析を行います。
妊婦さんの年齢、血清マーカーの血中濃度の増減、妊娠週数・体重・家族歴・1型糖尿病の有無などをかけ合わせ、対象となる疾患の確率を調べます。
検査で判明するのは、ダウン症(21トリソミー)、18トリソミー、神経管閉鎖不全症です。
費用は2-3万円程度で、結果が出るまで2週間ほどかかります。
良い点は妊婦さんの採血だけで検査ができることです。そのため赤ちゃんの流産リスクはゼロです。
弱点は、検査の非正確性です。例えば、21トリソミーである赤ちゃんが100人いた場合に、この検査ではそのうち80人程度の赤ちゃんしか異常判定が出ません3)。
②NIPT
NIPT(新型出生前診断)は、妊娠10週以降の妊婦さんの血液中に含まれる赤ちゃんのDNA断片を分析することで、赤ちゃんの特定の染色体疾患を調べることができる検査です。
検査価格は15-21万円程度です。検査結果が出るのに2週間ほどかかります。
NIPTで判明する疾患は、ダウン症(21トリソミー)、18トリソミー、13トリソミーの3種類の染色体疾患です。
これら3つは赤ちゃんの先天性染色体異常のうち、約7割を占めるといわれます。
良い点は、妊婦さんの採血のみで検査ができるということです。赤ちゃんの流産リスクもありません。
また、検査感度も優れています。例えば、100人のダウン症の赤ちゃんがいる場合、100人中99人は、この検査で異常ありと判定が出ます。
最終的には確定的検査が必要となりますが、それでも検査の正確性は母体血清マーカー検査と比べても優れています。
弱点は対象となる妊婦さんの条件が厳しいことです。
NIPT検査の適応条件 |
・超音波検査で染色体異常がある可能性が示唆された場合 |
・母体血清マーカー検査で、染色体異常がある可能性が示唆された場合 |
・染色体数的異常を持つ赤ちゃんを妊娠したことがある妊婦さん |
・高齢妊娠(出産予定日が35歳以上の女性) |
・妊婦さん本人か、夫に染色体異常(均衡型ロバートソン転座)がある場合 |
これらいずれかの条件に適応する場合に検査を受けることができます。
これらの条件に当てはまらなくても検査ができるクリニックも存在しますが、産婦人科専門の医師が行なっているわけではなく、学会からの認定もない場合が多く、万が一染色体異常がありと診断された場合は、その施設で詳しい説明を受けられない場合があります。
2-2. 羊水検査
羊水検査は妊婦さんのお腹に針を刺して、子宮内の羊水中に含まれる赤ちゃんの細胞を採取し、染色体や DNA の異常を調べる検査です。
羊水検査は妊娠15週以降に実施できます。費用は10-20万円程度です。
検査結果が出るのに2-4週間かかります。
良い点は、確定的検査であるため検査結果が確実ということです。
さらに全ての染色体異常について検査できます。
弱点は流産のリスクが約0.3%あることです。流産までにならなくても、破水や感染のリスクもあります。
2-3. 絨毛検査
絨毛とは、妊娠早期の胎盤の一部のことです。
羊水検査と同じ様に、母体の腹部に針を刺して絨毛を採取し、胎児の染色体や DNA の変化を調べます。 (胎盤の位置によっては、腟から絨毛を採取することもあります。)
妊娠11-14週に実施できます。費用は10-20万円程度です。検査結果が出るのに2-4週間かかります。
良い点は、羊水検査同様、確定的検査であるため検査結果が確実ということです。さらに全ての染色体異常についても検査できます。
弱点は流産や破水のリスクが約1%あることです。また手技が難しく、実施できる病院が限られています。
まとめ
NTが厚かったらどんな可能性があるのか、追加の検査はどんなものがあるのかについて解説しました。
NTが厚いと言われてもパニックにならず、しっかりと主治医と話し合って検査していきましょう。
参考文献)
1) Souka AP Von Kaisenberg CS, Hyatt JA, et al. Increased nuchal translucency with normal karyotype. American journal of obstetrics and gynecology 2005 : 192 : 1005-21
2) Souka AP, et al: Outcome of pregnancy in chromosomally normal fetuses with increased nuchal translucency in the first trimester. Ultrasound Obstet Gynecol 2001; 18: 9-17
3) Malone FD, et al: First-trimester or second-trimester screening, or both, for Down's syndrome. N Engl J Med 2005; 353: 2001-2011