SEET法について知りたい方へ。
現在、体外受精の治療中で、医師からSEET法を勧められたけれど、SEET法って何?どんな効果があるの?費用はいくらかかかるの?他の方法はあるの?と考えていませんか?
本記事ではSEET法、そしてSEET法と似た治療である二段階胚移植法について解説します。
1. SEET法
1. SEET法
1-1. SEET法とは
SEET法とは、受精卵を育てたときに使用した培養液を、受精卵を子宮に移植する前に子宮に注入することで、子宮の環境をより妊娠しやすいように変える治療法です。
自然妊娠においては、排卵された卵子と射精された精子は卵管膨大部で出会い、受精します。
受精卵は細胞分裂を繰り返しながら約5日間かけて卵管内を子宮へ向けて移動していきます。
このとき、受精卵は胚盤胞へと育って行きますが、育つ過程で、子宮へ「今から着床するから準備しといて!」というシグナルを送っています。
子宮は、この胚からのシグナルを受け取って子宮内膜が着床できるように準備を始めるのです。
こうして子宮内は妊娠しやすい環境へと変化します。
しかし、体外受精では子宮が胚からの「今から着床しますよー!」というシグナルを受けておらず、妊娠の準備ができていません。
そこで、受精卵を培養したときに使用した培養液を、胚移植の3日前に子宮内に注入することで、「今から着床しますよー!準備しておいてください!」と子宮に働きかける方法がSEET法なのです。
1-2. SEET法の方法
SEET法を行う際には、まず受精卵を5日間培養し、胚盤胞まで育てます。
胚盤胞まで育ったら、この胚を凍結します。
胚盤胞まで育てた培養液には、胚から放出されたエキスが含まれていますので、この培養液も胚とは別に凍結保存しておきます。
この胚から放出されたエキスに「今から着床するから準備しといて!」と子宮へ送るシグナルが含まれています。
胚移植を行う3日前に、凍結した培養液を解凍して子宮の中へ注入します。
培養液に含まれているエキスからメッセージを受けて、子宮は胚の移植により適した環境へと変化します。
そして、培養液を注入した3日後に胚盤胞を解凍して移植します。
1-3. SEET法の効果と費用の目安
①胚盤胞1個を移植する方法、②3日前に培養液を子宮内に注入してから胚盤胞を移植する方法、③3日前に胚盤胞を培養した培養液を子宮内に注入して胚盤胞を移植する方法(つまりSEET法)の3つの方法について、着床率や妊娠率を調べた研究論文があります1)。
この論文ではグレードが高い胚盤胞(つまり良質な胚)において、従来の胚盤胞のみを移植した場合と比べてSEET法で胚盤胞移植をする方が、着床率や妊娠率が高くなったという結果が出ています。
(具体的には、着床率:従来法 vs SEET法 = 64% vs 92%。臨床妊娠率:従来法 vs SEET法 = 56% vs 80%)
SEET法の費用の目安は20000円前後です。安いクリニックで10000円、高いクリニックだと80000円のところもあります。
2. 二段階胚移植法
SEET法と似た原理で二段階胚移植法があるので、一緒に解説します。
2-1. 二段階胚移植法とは
その名前の通り、二段階で胚を移植する方法です。
先ほども解説した通り、自然な妊娠では、受精卵が卵管を通って胚盤胞へと育つ過程で、子宮に「今から着床するか準備よろしく!」とシグナルを送っています。
体外受精でいきなり胚盤胞を子宮に移植しても、子宮の着床準備ができておらず、妊娠率は50%前後が限界でした。
そこで、先に複数の受精卵を体外で培養しておき、最初に4細胞期の受精卵(受精して2日目頃の受精卵)を子宮に移植します。
すると、先に移植された4細胞期の受精卵は子宮に着床の準備をさせるようシグナルを送ります。
残りの受精卵をさらに体外で培養して胚盤胞まで育て、着床準備が整った子宮へ移植します。
こうして、胚盤胞を移植した場合の妊娠率は飛躍的に改善したのです。
2-2. 二段階胚移植法の欠点
しかし、二段階胚移植法には大きな欠点がありました。
それは、先に移植した4細胞期の受精卵も育ってしまうことがあるということです。
つまり、先に移植した受精卵と、後から移植した胚盤胞がともに妊娠してしまい、双胎妊娠(つまり双子)となってしまうことが多く発生したのです
人間の子宮は、本来一人の赤ちゃんを妊娠するように設計されており、双胎妊娠はお母さんにも赤ちゃんにも双方に大きな負担となります。
(例えば、早産や妊娠高血圧症候群、低出生体重児など、母体にも赤ちゃんにも命の危険がある病気が発生する確率が大幅に増えます。)
しかもSEET法と二段階胚移植法の妊娠率はほぼ同率であり、最近ではSEET法が主流となっています。
ちなみに、日本生殖医学会「多胎妊娠防止のための移植胚数ガイドライン」でも、
①体外受精などの胚移植においては、日本産科婦人科学会の見解どおり、移植胚数を3個以内とすることを厳守する。
②多胎妊娠のリスクが高い35歳未満の初回治療周期では、移植胚数を原則として1個に制限する。なお、良好胚盤胞を移植する場合は、必ず1胚移植とする。
③前項に含まれない40歳未満の治療周期では、移植胚数を原則として2個以下とする。なお良好胚盤胞を移植する場合は、必ず2個以下とする。
④移植胚数の制限に伴い、治療を受けるカップルに対しては、移植しない胚を凍結する選択肢について、各クリニックにおいて必ず提示することを求める。
と決められています。
ものすごく簡単に言えば、「多胎妊娠(双子以上を同時に妊娠すること)を予防するためにも、胚移植を2個以上同時にするのはやめよう。もし2個以上移植するならそれなりの理由(何度も体外受精したけど妊娠しない場合など)がないとダメだよ。」となったわけです。
まとめ
今回はSEET法、二段階胚移植法について解説しました。
SEET法はグレードの高い胚盤胞(質が良い胚)の場合には妊娠率、着床率を上げることができ、推奨される治療法といえます。
参考文献
1) Sakae Goto, et al: Stimulation of endometrium embryo transfer can improve implantation and pregnancy rates for patients undergoing assisted reproductive technology for the first time with a high-grade blastocyst: Fertility and Sterility; Vol. 92, No. 4, October 2009